世界最難関と言われるハーバード、スタンフォード、ケンブリッジなどの名門大学を辞退して進学する学生がいるほどの人気ぶりで、合格率は1、9%という驚異のレベルを誇る大学をご存じでしょうか。
名前はミネルバ大学。
実はこの大学、2014年に創立されたばかりの新設校で、エドテック(エドテックについてはこちらの記事を)を完全導入しています。
「21世紀最初のエリート大学にする」というコンセプトのもと、米国に設立されました。
そういってもこの大学のキャンパスは米国にはありません。
講義や定期試験はありません。
一般的な大学なら必ずあるものが、ここにはないのです。
それでも全米の大学1年生に対して行われた思考力測定テストでは、全米の大学の中で圧倒的1位の成績を出しました。
ミネルバ大学に優秀な人材が世界中から集まると知った各国の大企業からは、莫大な寄付の申し出とインターンシップや雇用の問い合わせが殺到しているとのことです。
今回は、ミネルバ大学の取り組みをご紹介します。
ミネルバ大学のウェブサイト
https://www.minerva.kgi.edu/
授業はオンラインディスカッションが中心
講義はすべてオンラインで行われ、生徒たちは教授や他の生徒たちとインターネット上で授業を受けます。
オンライン授業というと、映像を視聴するだけの受け身の授業をイメージしがちですが、ミネルバ大学のオンライン授業の様子を聞くと、それをくつがえされます。
生徒は授業の前に教師から課題が出されます。それ興味を持ち、課題を提出した生徒だけが授業に参加することができます。
そのため生徒たちは、授業の前に課題について自分なりを意見を持ち、ディスカッションができる準備をしているため、非常にモチベーションが高いのです。
授業はオンライン会議システムを使い、参加するメンバー全員の顔を見られるようになっています。
授業が始まると、画面に質問と選択肢が出てきて、すべての生徒が数秒以内にそれに投票することになっていて、自分が投票した意見は、即座にほかの参加者に表示されます。
誰かが発言をすると、SNSの「いいね!」機能ににたボタンを押して、議論に参加します。
授業中のこのような発言内容や積極性がコンピューターですべて計測され、その生徒の成績となります。
NHKのドキュメンタリー番組、クローズアップ現代のウェブサイトより
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3924/1.html
キャンパスがなく、世界7か国の寮を移動しながら学習する
固定のキャンパスがなく、ミネルバ大学の学生は世界7か国にあるキャンパスを移動しながらオンライン授業に臨みます。
これはどういう意図があるかというと、国という枠組みを超えた考え方ができる人材を育てるためとのことです。
一度学んだことを、異なる場所、異なる文化で応用してみると、そこでは正解ではないということに気づくこともあるでしょう。
複雑化した国際社会の事情を知り、それにどう対応するかということを学ぶためには、自分で現地に行き、自分で見聞きして考えるしか方法はないかも知れません。
IT技術一辺倒ではなく、こういった体験も重要視しているところがミネルバ大学の特徴です。
キャンパスを持たない、もう一つの理由は、学費
ミネルバ大学がキャンパスをなくした理由は、研究費以外のコストをなるべく抑え、学費を抑えるという目的もあります。
エリート大学には、文化遺産になりそうな伝統的な校舎や、有名建築家が設計したキャンパスがあります。
この建築の土地、建物の維持費に莫大な資金が使われていますが、ミネルバ大学にはその必要がありません。
ミネルバ大学の教師たちは大学専用の研究施設を持ちません。教師は自分が所属している研究施設から授業を行えるので移動時間も移動費もかからず、
一方、生徒たちは世界中の第一線の研究施設に所属している現役の研究者から授業を受けることができるというメリットが生まれました。
こうすることで、ミネルバ大学は、エリート大学並みの教師陣を迎えながら学費は全米の大学の平均よりも低くすることを実現しています。
自発性が常に問われ続ける緊張感
大学4年間のうち、生徒は何を学ぶかを自分で決め、主体的に動かなければなりません。教授から一方的に授業を受けたり知識を伝えられたりということはありません。
こういった学習方法をアクティブラーニングと呼びます。
生徒は現状から問題を見つけ、それをどう解決したらいいかという議論を求められます。
教授は、各生徒の意見をまとめながら解決へ導く司会のような役割をしています。
離れた地域に住む生徒たちから様々な意見が出るようにすることを可能にしているのが、IT技術。
授業中は、教授が常に生徒の様子をオンラインでチェックし、どんな意思表示をしているかモニタリングしています。
そのため、授業は常に真剣で緊張感があり、あっという間に時間が過ぎていくそうです。
対面のグループ授業なら誰かの意見を黙って聞く時間が生まれ、個々の生徒に対してここまで細かなサポートはできません。
ミネルバ大学は、大学名を社会的地位とするためや、エリートを育てるための場所ではなく、まさに世界を変える「チェンジメイカー」を育てるために作られた学習機関です。
この10年以内に、日本にもミネルバ大学をモデルとした教育を導入した大学が誕生するのではないかと思います。

この記事を書いた人
Webデザイナー、Webディレクター
金融機関OLを15年経験ののち、Webデザイナーへ転向。
制作のかたわらWebデザインスクール講師を経験し、社会人が未経験からIT技術を習得するためのノウハウを研究。
現在の日本のIT教育やEdtechに注目している。